野井の鉄道警察分署

1973年、アメリカ
ノーマン・ジュイソン監督

「ジーザス・クライスト＝スーパースター」は1969年、コンセプトアルバムとして世に出るや否やヒットを飛ばし、1971年にはブロードウェイでの公演を成功させ、作曲家であるアンドリュー・ロイド・ウェーバーの名声を不動のものとしたロックミュージカルの金字塔である。

「ジーザスクライスト」の最も斬新な点は、それまで「神の子」「預言者」として神格化されていたイエス・キリストを、苦悩する一人の人間として描いたことだった。実際ブロードウェイの批評家たちから高い評価を受ける一方で、敬虔なキリスト教徒からの批判も激しく、劇場や映画館の爆破騒ぎ放火騒ぎなど当時は公演の度にもめ事も起きていたそうである。

日本では比較的早い時期から劇団四季がこのミュージカルを輸入し、現在では「ジャポネスク」など新しい演出を取り入れての公演なども行っている。市村正親や加賀丈史、滝田栄、もんたよしのりといった劇団四季出身の俳優たちもこのミュージカルを通ってきた。




ナザレのジーザス(テッド・ニーリー)とその12人の弟子たちは神の教えを説いて回ることで、ローマ支配下のユダヤ人社会で多くの民衆からの尊敬と羨望のまなざしを一身に受けていた。しかし膨大な民衆のエネルギーは自分たちを支配するローマに対して暴発する寸前まで高まっており、ユダヤ社会の大祭司カヤパをはじめとする司祭たちはローマとの衝突、そして自分たちの失権を恐れてジーザスの逮捕をもくろんでいた。




いっぽう、十二使徒のひとりであるイスカリオテのユダ(カール・アンダーソン)は、自らの力に振り回されかつての威厳と理想を失っていくジーザスに失望し、この苦しみを終わらせる方法を探っていた。
ユダの苦悶と怒りは、ジーザスが唯一心を許すマグラダのマリア(イヴォンヌ・エリマン)に向けられ、彼女をかばうジーザスとユダの溝はますます深くなっていく。




ジーザスはおのれの至らなさと民衆の無知に踊らされ、ますます孤独を深めていく。マリアの祈りもむなしく、ジーザスは神からの予言通り自らの死が近いことを悟り始める。

大祭司カヤパと司祭たちはジーザス逮捕のため、ジーザスを救おうと悩むユダに取引を持ち掛ける。銀貨30枚でジーザスが一人でいる場所と時間を教えるようにそそのかす。ユダはジーザスを売る真似になることに気後れするが、「その金で貧しい人々を救えるだろう」という言葉に負け、ついにジーザスの居場所を吐くのであった。




最後の晩餐が開かれ、ジーザスは裏切り者が出ることを予言する。すべてを承知しているジーザスは、ユダと激しく罵り合うも、最後には彼を送り出す。ユダはカヤパたちの元へ向かい、しばしののちにゲッセマネの園で一人祈りをささげるジーザスの元へ戻り、「彼がジーザスだ」と知らせるためその頬に口づけをするのであった。





映画版ジーザス・クライストはナンセンスでアヴァンギャルドな演出が高く評価され、ゴールデングローブ賞にもノミネートされた。
のっけからバスに乗ったヒッピーが衣装に着替え始め、十字架をかついで踊りだすなどその演出は過激だ(笑)
実際のところジュイソン監督はブロードウェイ版は観ておらず、69年に出たコンセプトアルバムだけを聞いてアイデアを出したのだという。戦車や飛行機といったオーパーツたちが登場人物たちの心理描写に多用され、ナチ式敬礼をするローマ兵や、ヒッピーのボス、ゲイやオカマやサイコなど脇役も実にエキセントリックな演出がなされている。

しかしジーザスの苦悩の場面でははりつけにされたジーザスの画を繰り返し流すなど、ショッキングな演出にも躊躇が無く、緩急の波に乗せてあっという間に時間は過ぎていく。

神としてあがめられたジーザスの人間としての一面。裏切り者として後世に名を残すユダの苦しみ。
絶対的な価値観に一石を投じるそのディープな世界観はいまもなお色あせていない。