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2024年09月13日

列車監督係の赤い制帽

ドイツ国鉄の制帽を探していると全体が赤い布で作られた制帽がたびたび検索に引っかかります。

この赤い制帽に関していろいろと調べていたのですが、ある程度めどが付いたので記事にいたしました。


列車監督係の赤い制帽
以下の記事はWikipedia ドイツ語版 Zugaufsicht の翻訳を中心に解説します。


ドイツの鉄道にはZugführerと呼ばれるスタッフがおり、Zugschaffnern(車掌)と協同して

・車両の出発前、運転後のブレーキ等装置の確認と準備
・客の乗降や発車の合図
・指令所、駅などと運転士、車掌との連絡係
・切符の確認や旅客サービスのチェック

などなどあらゆる業務に精通しています。

Zugführerは直訳では運転士や車掌と訳されますが、日本の鉄道用語での「車掌」では上記業務も掌管するため、本記事では便宜上「運行長」とします。正確な翻訳ではなく、意味の近い日本語での意訳であることにご留意ください。


ドイツでは運転士のことを60年代まではLokomotivführer(蒸気機関士)もしくはLokführer(機関士)と呼んでおり、現代では動力を持つ鉄道車両を運転する者をEisenbahnfahrzeugführer (Ef)と呼称しているようです。

ただEfの名称が導入される前、ドイツとオーストリアでは60年代以降、動力で牽引する、もしくは動力分散方式である電車なども含めて運転士をTriebfahrzeugführerと呼称しており、Efの名称が導入された現代でも口語会話レベルでは使われている単語だそうです。

整理すると、
旅客列車(機関車1台、客車数台)が運行しているとして、

・Lokomotivführer(蒸気機関士)もしくはLokführer(機関士)=60年代以降はTriebfahrzeugführer(列車運転士)
・Zugschaffnern(車掌)
・Zugführer(運行長)
・その他スタッフ

がそれぞれ乗り込んでいるということになります。

このうちZugführer(運行長)は、しばしば【客の乗降の確認と発車の合図】という重要な役割を担っています。この業務の資格を持ち、また実際に業務に当たるZugführer(運行長)を特にZugaufsichtと呼びます。
Zugaufsichtはホーム上での視認性を上げるため、赤いトップの制帽を被るように決められています。
Zugaufsichtの許可が出ると、運転士は列車を発車させることができます。

※追記
なお参照したドイツ語版WikipediaのZugführerならびにZugaufsichtの記事は、現代のドイツ鉄道でのZugaufsichtを指した記事であるため、おそらく運転士か運行長(Eisenbahnfahrzeugführer、もしくはZugführer)がZugaufsichtを兼ねている前提で書かれています。

機回しが必要だったり、超長距離旅客の需要が多かった1930~1940年代のZugaufsichtは、駅のスタッフで特に訓練を受けた資格者が任に当たっていたと思われます。
現在のドイツ鉄道ではFahrdienstleiter(運行管理官)」の教育と資格をまず取得してから任命されるそうです。
ダイヤの更新情報などを把握する仕事のため、おそらく戦前からもほぼ同じ仕組みだったと推測されます。

よって「列車にZugaufsichtが赤い制帽を被って乗り組む」という状況は、少なくとも45年の時点では見られなかったのではないか、というのが現状の私の推測です。

列車監督係の赤い制帽列車監督係の赤い制帽

ドイツ鉄道(Deutsche Bahn)とドイツ国営鉄道(東ドイツのドイツ国営鉄道、Deutsche Reichsbahn)のZugaufsicht


以下はドイツ語版Wikiの「Zugführer」の記事より

Zugführer(運行長)は、列車の旅を安全かつ適切に運行する責任を負う列車乗務員である。Zugführer(運行長)の列車走行中の業務は多岐にわたり、しばしば列車走行前後の他の業務も伴うため、そのためにはさらなる鉄道運転資格が必要となる。ドイツの鉄道運行略号はZfである。


続いてZugaufsichtの記事

Zugaufsichtは、列車が発車できるかどうかを判断する。この仕事を任された従業員が発車指令を出す。ドイツでは、Zugaufsichtは一般的にZugführer(運行長)の責任である。特別なZugführer(運行長)がいない列車の場合は、Triebfahrzeugführer(列車運転士)が責任を負う。


Zugaufsichtを分解すると

Zugは列車を
Aufsichtは「監督、監督者」
を意味するので、本記事ではZugaufsichtを「列車監督」と訳して続けます。



解説が長くなりましたが、列車の運転士が、発車の許可を出す役目を持つZugaufsicht(列車監督)をホームやその他で視認しやすいように使われているのが、この赤い制帽=Roten Mütze というわけです。

ドイツを構成する諸国が、ワイマール共和制下でドイツ国有鉄道に統一される前から、鉄道産業の発達とともに混雑する駅の業務をさばくため、色の付いた帽子を使って視認しやすくした列車の監督係が諸邦の国有鉄道にはあったようです。
特に黎明期から初期には駅長が列車監督を兼ねている場合もあり、WW2期の制帽が「駅長用」として実物ショップで販売されているのはこれが遠因のようにも思います。


例:1907年からのプロイセン国有鉄道の運転規則など
「交通整理のための特別な役人が任命されていない場合、監督者は交通整理役でもある」
「列車の到着時、通過時、出発時には、列車順序の規則によって明らかに妨げられない限り、監督者は制服を着用するか、所定の記章(オレンジ色の制帽)を着用していなければならない」

列車監督係の赤い制帽

1928年のZugführer(運行長)。赤い制帽で地方駅の場合は、Fahrdienstleiters(指令員)が兼務している可能性があることに注意(後述)


また、1944年の列車運行規則第9条(3)には、
「列車の到着、通過、出発の際には、列車の順序の規制によって明らかに配車係(Fahrdienstleiter)としてそれができない場合を除き、監督者(Aufsichtsbeamte=監督係の職員)は立ち会うべきである。列車運転士が監督業務中であっても、彼は 「赤い帽子 」をかぶる」。
とあります。

ダイヤ乱れや混雑などでどうしてもホーム上で発車指示が出せない場合は、Zugaufsichtが運転士に委任することが可能でした。しかし最後の一文「列車運転士が監督業務中であっても、彼(Zugaufsichtと思われる)は 「赤い制帽 」をかぶる」とあるように、委任したからといって赤い制帽も渡すことは無いようです。

この時代の赤い制帽は駅員が使用するものとみて間違いなさそうです。
ちなみにホームで発車の可否を判断する業務の時以外は帽子は普通の制帽を被っていました。

赤い制帽で現存する戦中タイプや、戦後の西ドイツ・東ドイツの制帽は顎紐がありません。
給与ランクをおおまかに示すためについているいわば飾りですが、この帽子は発車確認の時に列車からホームのZugaufsichtが見えやすいように使われていたため、必要が無かったのだと思われます。


1905年ごろまではStationsbeamten(当直駅員)と呼ばれていたスタッフがZugaufsicht(列車監督)と同じ業務をこなしていましたが、同年からFahrdienstleiters(運行管理官)という呼称が新たに生まれました。
この時期になるといくつかの駅には運行指令室(信号管理)が独立して設置されるようになり、駅によって監督者がホームにいたりいなかったりといった差異が生まれ、Stationsbeamten(当直駅員)が列車監督をするのかFahrdienstleiters(運行管理官)が列車監督をするのかは全国では標準化されていなかったそうです。

以降は指令係は信号場で列車の動きを制御し、必要に応じて信号場と連絡を取り、監督係はホームで勤務するようになりました。

ドイツでは指令員が監督を兼ねることはまれで、ドイツ連邦鉄道の成立以前は小さな地方支線に限られていたそうです。
またダイヤをはじめとして様々な運行情報に精通しているため、現在でも大きな旅客駅にはサービス業務のスタッフとしても赤い制帽を被って業務にあたるZugaufsichtがいるそうです。

列車監督係の赤い制帽


試験を合格した有資格者が業務にあたるためか、給与ランクが比較的下の方である革製の顎紐を備えた制帽もオリジナルで販売されています(戦後に付け足した可能性も否定はできませんが。。。)。



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この記事へのコメント
こういうスタイルの職員が業務に当たっていたことは存じませんでした。
かつて読んだTEEやICEの本では専ら車輌と運行そのものに紙面が割かれていたものでした。
ドイツの鉄道も戦前と戦後でいろいろと体制が変わっておりますが、勤務服の伝統が続いているのは面白いものです。
Posted by 引退した人 at 2024年09月13日 16:28
こういうスタイルの職員が業務に当たっていたことは存じませんでした。
かつて読んだTEEやICEの本では専ら車輌と運行そのものに紙面が割かれていたものでした。
ドイツの鉄道も戦前と戦後でいろいろと体制が変わっておりますが、勤務服の伝統が続いているのは面白いものです。


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コメントありがとうございます。
ドイツは商業鉄道の黎明期からノウハウを重ねてきた国で、「鉄道官吏」と呼ばれる役人が早くから設置されておりましたゆえ、このように複雑な給与・技術システムが発達したのかもしれません。
大元を探せば日本の鉄道も欧州の技術の輸入ですし、現代日本と似通ったシステムももしかしたらあるかもしれませんので、引き続き研究してみます。
Posted by 野井 at 2024年09月16日 22:41
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