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2016年04月15日

バルジ大作戦

バルジ大作戦


1965年、米英合作のハリウッド映画である。
この時代のハリウッド戦争大作らしく、その尺はなんと3時間。「パットン大戦車軍団」といい、「史上最大の作戦」といい、「遠すぎた橋」といい…長い…。
バルジ大作戦

バルジ大作戦とは第二次世界大戦中の1944年末からベルギー郊外のアルデンヌの森で開始されたドイツ軍最後の反撃作戦で、米軍側がドイツ軍の突出した出っ張り(=英語でバルジ)からその名を付けた。
ドイツではルントシュテット攻勢、アルデンヌの戦い、ヴァハト・アム・ライン(ラインの護り作戦)とも呼ばれる。

この作戦は目標であるアントワープの連合軍拠点の奪取までには至らなかったが、戦争の終結を2~3か月先延ばしにすることができたとされる(結局ドイツは負けてしまうが)。
バルジ大作戦



さて、大まかなストーリーはといえば、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、テリー・サバラスなど往年のハリウッドスターが数多く登場する連合軍将校の人間模様と、対するドイツ陸軍最後の戦車軍団との対決劇なわけだが、このドイツ軍の指揮官であるヘスラー大佐(ロバート・ショウ)以下、ドイツ軍の描かれ方がとにかくカッコよくていまだにマニア受けが良いのである。ハリウッド映画にしてはやりすぎなくらいだ。
そもそもこの「バルジ大作戦」のテーマ曲に、ドイツの軍歌である「戦車行進曲」が普通に入っている。ワンフレーズ入れちゃったどころの騒ぎではない。えらくドイツに優しい映画があったものである。

この映画が製作された1965年は終戦からまだわずかに20年。新生した西ドイツ軍が制式小銃G1としてベルギーのFN社からFALを買い付けようとしたら「うちの銃買ってまたうちを侵略されたら困る」と突っぱねられたのもこの時期よりちょっと前あたりの話だ。ナチスの記憶はまだ生々しい。

バルジ大作戦


そんななかでこのヘスラー大佐という男は、すこしもチンケなところのない、騎士道精神の鑑のような軍人に描かれている。
演じているのがブロンド金髪のイギリス人であるロバート・ショウというところも大きく手伝っているのだろうが、いまだ世界中に愛好者を持つドイツ軍のパンツァー・ユニフォームの着こなしと相まってその存在感は圧倒的。
正々堂々とした勝負を好み、司令部の計らいで送られてきた娼婦には目もくれない、恐ろしいまでに任務に忠実な男である。非情な命令も躊躇わず下すが、一方で作戦行動中は兵より高級な食事は取ろうとしない。部下を信頼し、また部下からの信頼も厚いと思わせる強靭な敵役を見事に演じている。
ちなみにだがヘスラーは徽章からして国防軍の軍人。

戦車部隊の黒服は一般的に一般親衛隊の黒服と混同されがちだが、基本的に関係は無い。
そういえばいつだったか氣志團もナチスの服着てる!とか怒られてたけど、アレよく見たら戦車搭乗服だったな…。


オーディオコメンタリーでは、アメリカ人のインタビュアーがナチスの将校を演じてどうだったかとけっこうハードに(当たり前だが)いびってくるのだが、ショウは別に戸惑うこともなく余裕たっぷりにかわしてみせる。腹の据わった役者さんである。
イギリス人のこういう割り切り方はすごいもので、どんな仇敵であろうと映画で演じるとなれば本気で演じている。余談だが007では当たり前のようにドイツの拳銃をボンドに持たせてしまった。恨みを引きずらないというより、使えるものはなんでも使っちゃう根性の太さがさすがイギリス人と言いたくなる。
オーディオコメンタリーは白黒なのだが、戦車のハッチから身を乗り出してこちらを見るショウの横顔はもはやドイツ軍人そのもので、戦争当時のフィルムかと思うレベルである。
ちなみにヘスラー大佐の元ネタは、戦時中に武装親衛隊でパイパー戦闘師団を率いていたヨアヒム・パイパーSS中佐と言われているが、こんなこと言っては失礼だがこの人もこの人でいかにもな悪役の名前だ(笑)

バルジ大作戦

激似…ではないが雰囲気はそっくりだ。名前は悪役っぽいがユダヤ人虐殺にはあまり協力的ではなかった…と聞いたことがある。ただバルジ大作戦の最中に彼の部下がマルメディで捕虜のアメリカ兵を皆殺しにしてしまい、これがマルメディの虐殺として知られパイパーも戦後に死刑判決を受けている(史実では成り行き上の処刑と考えられており、この映画では逆に計画的処刑と描かれている)。
その後は特赦によってフランスで隠居していたが、1976年に仏政府にバレて国外退去を命じられ、その期日の前日に自宅を放火され亡くなっている。

バルジ大作戦



またヘスラーの副官として常に付き従うコンラート伍長役のハンス・クリスチャン・ブレヒもショウに劣らぬ存在感を放つ。それもそのはず、ブレヒは第二次世界大戦で東部戦線に従軍していたモノホンの元ドイツ軍人である。

彼は戦後に役者へと転身したが、(彼がどの兵科に属していたかはともかくとして)再び鉤十字の制服に袖を通すことになるとは思ってもみなかったのではないだろうか。東部戦線とは主にドイツ軍とソ連軍が相対していたヨーロッパ東部の長い戦線を指すが、どれほど恐ろしい戦線だったかは「スターリングラード(1993)」「炎628」などを見ていただけるとわかりやすい。さらっと勧めたけどこの2本はほんとに落ち込み系戦争映画なので注意(笑)

彼のほかにももう一人、役者ではないが軍事アドバイザーとして元ドイツ軍人がドイツ軍役の指導に当たっており、まだナチスが記憶として強く保持されていた頃の様式を垣間見ることができる。オーディオコメンタリーを見ていると、よく映画で見る派手なハイル・ヒットラーの敬礼もあながち誇張ではないようだ。

バルジ大作戦

このようにえらくカッコいい描き方をされているドイツ軍だが、やはりその根源には戦車兵の制服が大きく関わっていると見て間違いない。第二次大戦中の戦車兵被服といえばどの国も大抵が通常の戦闘服の延長にあったものだが、ナチスドイツ軍の戦車兵服はまるきりそれから外れていた。
Pコートのような漆黒の制服に制帽かベレー帽を被り、シャツを着てネクタイを締めるその独特のスタイルは現代にも多くのファンを持つ。黒は竜騎兵つまりドラゴナーの色で、ドイツもといプロイセンの騎士にとっては栄誉ある色である。
他国よりずっと洗練されたその制服美は、終戦までドイツ軍の戦車隊をエリートたらしめ、戦後も精強なドイツ軍戦車部隊の代名詞となったのである。

さて、さんざんドイツ軍を賛美して気持ちよくなっちゃったところで(笑)、映画自体の総評にうつろう。

この手の戦争大作はドキュメンタリーというか、個人の伝記のようになるとだいぶ退屈である。「パットン大戦車軍団」はその最たるもので、よほどパットン将軍が好きでないとドドーンと巨大な星条旗が飾られた前で将軍が演説するシーンあたりで昏睡必至である。
その点「バルジ大作戦」はちゃんと敵味方に平等に視線を振ってくれるので、長尺を覚悟しておけば面白い内容にはなっている。第二次世界大戦は今のところ人類史上最後の一大スペクタクルといっても過言ではなく、巨大なドラマが展開していく様をたっぷりの時間で追っていかなければその壮大さは伝わらないからだ。
「長くてつまんない映画」と言ってしまえばそれまでだが、映画はそれぞれ見方や流儀みたいなものがあるので、それに合わせて見れば大丈夫なようにできているものである。
一方で史実に忠実ではない、とけっこうな批判も浴びたそうである。アイゼンハワーなどはこの作戦に実際に参加してましたから、隠居してたのに公式に抗議文まで出してきたそうです。でもまあ個人を追っかけてしまうと「パットン大戦車軍団」コース必至なので、戦争娯楽大作としてみれば間違ってない映画だと思うけど。これが「アイゼンハワー将軍」なんてタイトルだったら観る気起きないよ…。


バルジ大作戦

「バルジ大作戦」ではスペイン陸軍の協力を得て、数十台にも及ぶ大量の戦車がタンクバトルを繰り広げるのが最大の魅力だ。子供のころの私にも、戦争映画に出てくるドイツ戦車役のアメリカ戦車を見て「ドイツの戦車じゃない!プンスコ!」とアンチしていた時代があったが、本物の戦車が動いて戦っていることの感動を噛みしめられるくらいにはどうやら大人になれたようである(笑)
たとえ見た目がどうであれ、実物の戦車にここまで肉薄して撮影した映画があるという意味はとても大きい。しかもチョバムアーマーだの爆発反応装甲だの複合装甲だのといったハイテク臭い装備は一切ない、中華鍋をひっくり返したような鋼鉄の怪物なのである。この迫力は必見だ。よくスタッフやキャストに死人が出なかったものだと感心したくなる。


この映画が封切られた1965年は、ちょうどベトナム戦争が激化していた時期である。
「20年前、俺らの父ちゃんたちは命懸けで極悪なドイツをやっつけたんだぜ、YEAH! USA! さて、いまは誰を倒すべきか、わかるね…?」てな感じだ。
ソ連をぶっ倒すため、過去の成功例を持ち上げて愛国心を駆り立てるための映画と取れなくもないが、そんな映画はたいがいどこの国でも作ってるし、政府がやれと言わないでもマスコミが勝手にやってくれるもんである。ただ、1999年になってもスキンヘッドのドイツ兵を出すような映画があった一方で、ドイツ軍をちゃんと人間として描いた映画が一本くらいはあったんだという意味は、やっぱり大きいのである。たったこれだけのことがいまだに描けない戦争映画はごまんとあるからね、、、

バルジ大作戦

このかっこよさはほんとにヤバい。いろんな意味で。



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